2017年7月30日
歯の表面はエナメル質の名の通りツルツルしているように思われていますが、本当は表面に細かく溝があってザラザラしています。
そのでこぼこ面にグルカンはしっかり入り込んで、張りついてしまいます。しかも、水には溶けません。
その中でミュータンス菌は生き続けます。そして、しだいに歯の表面に分厚い膜を作っていきます。この膜を「バイオフィルム」といいます。
歯の表面にバイオフィルムができてしまうと、歯のエナメル質が唾液にふれることができなくなり、唾液による清浄作用がきかなくなります。そのため、バイオフィルムで守られた内側は細菌が繁殖しやすい環境になります。
ミュータンス菌は、バイオフィルムの中で、食べものなどから糖分を吸収して、自分が生きていくためのエネルギーを作り出します。
この過程を「発酵」といい、糖は最終的に乳酸や酢酸、エタノールにまで分解され、外に放出されます。
ところがバイオフィルムが育ってくると、できた酸(最も多いには乳酸)は外に放出されずに、バイオフィルムの中に残り、歯のエナメル質を溶かしはじめます。
歯磨きなどによって早くバイオフィルムを取り除くことができれば、傷ついたエナメル質をふたたび石灰化して修復することができるのですが、酸性状態が続くと、エナメル質の破壊は進行し、虫歯へと向かっていきます。
2017年7月27日
歯の表面は常に唾液でおおわれています。
そして唾液が歯の表面のエナメル質にふれているかぎり虫歯にはなりません。
唾液には、さまざまな作用がありますが、その一つが清浄作用です。口の中の細菌や食べ物のカスを洗い流してくれるのです。
ところが、ミュータンス菌が口の中にいると、砂糖という「えさ」を得て、唾液をさえぎる膜のようなものを歯の表面に作ってしまいます。
そのため、唾液のはたらきが行き届かなくなり、虫歯が作られていくのです。
ミュータンス菌が分泌するグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)という酵素が、砂糖をネバネバした「グルカン」という多糖体に変え、歯の表面にぴったり張りつきます。
ミュータンス菌は、砂糖がない状態でほかの口の中にいる細菌よりもくっつく力が弱いので、唾液の中に浮いているだけで、自然に唾液によって流されてしまい、口の中に居座ることはできません。
しかし、砂糖があると、ネバネバとしたくっつきやすいものとなって歯の表面にへばりつくのです。
2017年7月24日
虫歯の原因菌がミュータンス菌であるとようやくわかったのは、無菌動物を使って虫歯の研究ができるようになったからです。
完全に外界と隔離した無菌環境で飼育された無菌動物に、虫歯が発生しやすいエサをいくら与え続けても虫歯は発生しませんでした。このことでまず、虫歯は細菌によって引き起こされることが証明されました。
次に、無菌ラットに様々な細菌を接種して虫歯を発生させられるかどうか実験してみました。
その結果、ミュータンス菌を摂取した無菌ラットには虫歯が発生しますが、他の菌種、例えば乳酸桿菌では虫歯は発生しませんでした。この動物実験によって、ミュータンス菌によって虫歯が起きることが証明されたのです。
乳酸桿菌は、本来、体にさまざまな病原体が入ってくるのを防ぐよい細菌ですが、ミュータンス菌といっしょになると悪い仲間に引き入れられて、虫歯作りに協力してしまう細菌だったのです。
乳酸桿菌は、口の中にくっつく場所(レセプター)を持たないので、ふわふわ浮いています。そのため、ミュータンス菌にくっついて歯の表面に検出されることもありましたし、強い酸性状態でも生きられるので、虫歯菌と間違えられてしまったのです。
ただ、本来はよい細菌なので、ラットに植え付けても虫歯が発生する事はなかったというわけです。
2017年7月21日
定説と現実のギャップに多くの研究者は悩まされていたようです。
結局、虫歯と乳酸桿菌とを結びつける裏付けはなされないままに時が過ぎました。
日本においても長い間、この乳酸桿菌説が幅をきかせていて、感染症としての対応を遅らせてしまったようです
そして今から数十年ほど前、1970年代に入ってようやく、虫歯の原因となる菌は「ミュータンスレンサ球菌」(以下「ミュータンス菌」と略します)であることがわかりました。
ミュータンス菌というのはストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスなどという7種類の菌の総称ですが、ヒトからはとくにこの2種類が検出される場合が多いようです。
すでに1924年、イギリスのセントメアリー病院のJ.K.クラークが、ヒトの虫歯から分離したミュータンス菌の存在を明らかにしていました。
それから実に50年たっていたのです。
2017年7月18日
乳酸桿菌が虫歯菌と見なされたのは、当時の次のような実験と観察に基づいています。
1.虫歯にかかっている人の唾液や歯の表面には見出されるが、まったく虫歯のない人にはまれにしか検出されないこと。
2.虫歯が発生する3~6ヶ月前に唾液中の乳酸桿菌の増加がみられること
3.ラットで実験的に発生させた虫歯と菌数との間には相関関係があること、などです。
ただし、唾液中の乳酸桿菌数の少ない人にこの菌を口から与えても、口の中に容易に定着しませんでした(つまり、虫歯はできませんでした)。
これは免疫ができていたり、他の菌との間に抗菌関係があるためだと考えられていました。
その後、細菌培養技術に飛躍的な進歩があったにも関わらず、乳酸桿菌数と虫歯の間に明確な相関関係は見出せず、動物実験においても虫歯を発生させることができませんでした。
2017年7月15日
1890年にアメリカのW.D.ミラーという歯科医が「口腔の微生物」という著作で「化学細菌説」を発表しました。
彼は歯科医でもあり、同時に細菌学も学んだ人で、その知識と技術を歯学の領域に生かそうと試みた人です。
この本によれば、歯の表面に存在する細菌が、歯の溝やくぼみ、歯と歯の間の接触部分に溜まった食物を利用して、「酸」を作り、その酸によって歯の表面のエナメル質や象牙質が溶かされて(専門用語で「脱灰」といいます)できたのが虫歯であるというのです。
食物を分化して算出される主な酸は乳酸であるとしています。
ただし、ミラーは、唾液中の細菌によって作り出される酸だけで歯の脱灰が起こると思っていたようです。
また、虫歯を引き起こす細菌は数種類あるらしいと考え、虫歯菌そのものについては、それ以上探求していませんでした。
そして、1920年ごろ、虫歯菌の正体として「乳酸桿菌」という細菌が注目されるようになりました。これは、口の中や腸、女性の膣の中に常にいる菌で、虫歯の病巣からしばしば見つけられ、酸を作り出します。
また、そのように酸を算出しつづけて強い酸性の条件下でも生存能力が高いということで、以来約40年間決定的な科学的証明もないままに虫歯の原因菌としての地位を獲得してしまいました。
2017年7月12日
お母さんの歯をきれいにするだけで、赤ちゃんの歯を虫歯から守ることができました。
このことから、お母さんが感染源であったと考えられるのです。
「でも、どうやってお母さんから子どもにうつったのかしら」と思うでしょう。
出産前後、お母さんの唾液中でミュータンスレンサ球菌が異常増殖している場合があります。これが問題なのです。ではなぜ、ミュータンスレンサ球菌が異常に増殖するのでしょう。
原因は、妊娠期の不規則な食事の取り方にあります。
つわりがあったり、胎児に胃が圧迫される状態では、三度の食事を規則的にとることができません。十分なカロリーを摂取するためには、間食が多くなります。
また出産後も、母乳を出すために、頻繁に間食をとるような食生活が続きます。
そうすると、ミュータンスレンサ球菌は間食を利用して異常増殖するのです。
お母さんがこんな状態で、赤ちゃんの離乳が始まります。
赤ちゃんが離乳食を食べ始めた時期に、自分の唇にスプーンをあてて食べものの温度を調べたりしませんでしたか。食べやすい大きさにするために自分の口の中で噛みきってから赤ちゃんにあげたりしませんでしたか。
赤ちゃんの手が食べ物で汚れたとき、舐めてきれいにしてあげたことはありませんか。思いあたることが必ずあるはずです。
何気なくしていたことから、赤ちゃんに虫歯菌をうつしていたというわけです。お母さんだけではありません。お父さんやおばあちゃん、家族のほかに保育者などの大人の口から感染して、子どもの歯に虫歯菌が棲み着くようになるのです。
2017年7月9日
子どもの虫歯はお母さんやお父さんが虫歯菌をうつしたからできた」といわれたら、「えっ、そんな」と驚く親御さんがほとんどでしょう。
「歯磨きをきちんとしないから虫歯になったのよ」「お菓子を食べてばかりいるからよ」と子供を叱ってきたのに、なんと責任は自分にあったとは。
その証拠に、赤ちゃんの口の中に虫歯菌はいません。赤ちゃんには歯がないから当たり前だと思うかもしれませんが、虫歯の原因となるミュータンスレンサ球菌が本当にまったくいないのです。
では一体、赤ちゃんに虫歯菌を誰がどこでうつすのでしょうか。
1994年にスウェーデンで、お母さんの歯をきれいにすることによって、赤ちゃんの虫歯菌の感染を減らすという試みが行われ、その結果が論文として発表されました。
一つのグループは、歯科衛生士によってお母さんの歯の汚れを徹底して取り、さらに栄養指導を行いました。もう一方のグループは何も特別な事はしませんでした。
そして、子どもが7歳になった時点で調べてみると、歯をきれいにしたお母さんのグループで虫歯菌を保菌して(継続的に持って)いた子どもの数は、何もしなかったグループの子供の2分の1だったという結果が出ました。
2017年7月6日
「お菓子ばっかり食べているからでしょ」、「歯をきちんと磨かないからですよ」と怒られてシュンとしながら、虫歯の痛みに涙を流した経験のある人は少なくないはずです。
ところが、虫歯の原因はそんなところにはありません。「虫歯は感染症です」といったら、あなたは一瞬耳を疑うことでしょう。
感染症といえば、真っ先にインフルエンザやコレラ、エイズなど思い浮かべますが、正確にはウイルスや細菌、寄生虫などの微生物が体内に侵入して、臓器や組織の中で増殖することを「感染」といい、その結果生じる病気を感染症といいます。
インフルエンザやエイズなどのように人から人へ伝染する病気のことを伝染性感染症、膀胱炎や破傷風などのように伝染しないものを非伝染性感染症といいます。虫歯は、インフルエンザやエイズと同じ伝染する感染症なのです。
虫歯は口の中にいる細菌のうち、とくに「ミュータンスレンサ球菌」という細菌の感染によってできる、ということは数十年ほど前から分かっていました。
この菌の説明はあとにするとして、ここではひとまず虫歯菌と呼んでおきましょう。
虫歯菌の感染によって虫歯になることは、歯科の世界では常識のようになっていますが、いまだに一般の人たちにも広まっていないようです。
みなさんの中には甘い物の取りすぎで虫歯になるとか、歯垢が溜まって歯のエナメル質が溶けて虫歯になると考えている人が多いのではないでしょうか。
「感染症だということは、うつらなければ虫歯にならないってこと?」と思われるでしょう。
その通り、答えは「イエス」です。
2017年7月3日
ビタミン不足、栄養障害、糖尿病、肝臓疾患などによって、歯槽膿漏が急激に悪化するケースがあります。
これらの疾患も無関係ではないはずです。また、喫煙は歯周病に非常に悪いといわれています。
とはいっても、そのような病気もなく健康面にいつも注意していても、歯周病が悪化する人もいるのです。逆に、食べ物や栄養に全く気を配らず、タバコを吸って不摂生しているのに、まったく歯周病とは無関係な幸せな人もいます。
したがって、摂生、不摂生の関わりについても疑問が生じてくるわけで、原因を特定するのがますます難しくなってきます。歯周病については、これだという原因の決め手が見つかりません。だからこそ、予防が大切なのです。
まずは自分でできる防止策を実行してみることです。基本的には、原因だとされる細菌をやっつけることが大切です。
テレビのコマーシャルなどでも言われているように、細菌のなかでは、プラークがいちばんの悪玉なのです。