根管治療とは17
2017年4月26日
「歯がないと咀嚼が十分できず、物を丸呑みしてしまい消化に悪い。だから歯を大事にしなさい」と昔の人はよく言いました。しかし、果たしてそれだけでしょうか。咀嚼にはもっと大きな役割があるような気がするのです。「歯を残す」ことがなぜ人間学的にみてそれほど重大なことなのか、別の角度から考えてみましょう。
懸命に治療技術を向上させてきた目標に「大臼歯の救出」があります。最も治療が困難と言われる大臼歯を、「確実に治す」という予測性の高い根管治療術が、どんなに価値を生み出すかよく知っていたからです。
もちろん、前歯の真直ぐな歯の根管治療は意義がないと言っているわけではありません。ただしかし、大臼歯の咬合圧(噛み合わせのときに加わる力)は、前歯に比較して数段上です。例えば抜歯し、入れ歯になった場合にその咀嚼率、および咬合力は約30%に落ち込んでしまいます。
よく「入れ歯になると何々が咬めなくなった」とか、「これ以上硬いものが食べられない」とかいう話を聞きます。自分の歯であれば、そういうことはありません。歯を残すということは、咬合圧の点からもまずその重要性がクローズアップされます。
入れ歯では30%しか咬合圧の効果を補償することができないわけです。いきおい、歯がなくなりますと、咬まなくてよいもの、柔らかいものを選ぶようになります。問題はここです。人間、柔らかい物を咬むようになりますと、顎骨とそれを動かしている筋肉が弱くなります。骨の発育もむろん悪くなります。
サルを使っての実験では、片側の歯を全部抜いてやわらかいものを与え、片寄った咬み方をさせますと、歯を抜いた側の脳の活動が極度に劣ってきて、退化してしまいました。歯を失って、よく咬めなくなることが、精神活動にも大変な影響力を与えることが分かります。